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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(あ)326号 決定

主文

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中六〇日を本刑に通算する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

被告人本人の上告趣意について。

所論は結局本件強盗は他人の所為であって、これを被告人の犯行と認定判示した第一審判決並びにこの判決を是認した原判決は違法であるというのである。しかしかゝる事実誤認の論旨は仮りに証拠の取捨判断乃至事実認定において、法令又は実験則に反するという趣旨であるとしても、それは、単に訴訟法違反の主張たるにとゞまり、明らかに、刑訴四〇五条に定める上告の理由たる事由には当たらないし、また、本件では同四一一条を適用すべきものと認められない。

弁護人平林庄太郎の上告趣意について。

しかし、上告の申立は刑訴四〇五条に定める事由があることを理由とするときに限りなすことができるものであって、同四一一条は上告申立の理由を定めたものでなく、同四〇五条各号に規定する事由がない場合であっても、上告裁判所が原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めた場合に職権をもって原判決を破棄し得る事由を定めたに過ぎないものであること、並びに、上告審を純然たる法律審すなわち法令違反を理由とするときに限り上告を為すことを得るものとするか又は法令違反の外に量刑不当乃事実誤認の上告理由をも認めて事実審理を行うものとするかは、立法を以て適当に決定すべき事項に属し憲法の保障するところでないことは、当裁判所大法廷の確立した判例である。されば、事実誤認を憲法の保障する直接の上告理由とする所論は上告適法の理由として採用し難い。そして本件では、同四一一条を適用すべき場合とも認めることはできない。

論旨はそれ故に採用できない。

よって刑訴四〇八条、同一八一条第一項、刑法二一条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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